1.

世界の有り様を、わかりやすく伝えようと思う。私達の生きる意味について。

2.

人類は、大きな大きなガレー船だ。私達は、ガレー船の船員として生まれてくる。生まれつき、1人1つのオール(櫂)を持っている。

1人の人間がオールを漕げば、ガレー船は一漕ぎ分前へ進む。人類は、数ミクロン、前へ進む。

68億人がオールを握っている。

3.

5割の人は、オールを漕ぐことで生きている。生きることがオールを漕ぐことを意味する。

多くの人は、惰性でオールを漕いでいる。それでも、34億人がオールを漕ぐ。

2割の人は、生きることに精一杯で、オールを漕ぐ余裕はない。

2割の人は、自分ではオールを漕いでいるつもりになっている。他人のオールに自分のオールを繋いで、漕いでもらっている。

1割の人は、オールを逆に漕いでいる。理由はさまざまだ。宗教や差別を理由にする人が多い。

数%の人は、他人の命を奪うことを生業にしている。彼らは、恐怖によって、多くの人のオールを止めている。

それでも、全体的には、人類はどこかに向かって進んでいる。人類は加速度的に前進している。今のところ。

4.

生まれつき1人に1つ与えられるオールは、大きさも材質もまちまちだ。

アルミ合金の超軽量オール、先端に原子力モーターとプロペラが付いたオール。人類に貢献できる才能を与えられた人たち。

穴だらけでちっとも水を掻けないオール、ただの木の棒。才能に恵まれなかった大部分の人たち。

人は、与えられたオールを加工することができる。加工すれば、より強い推力を生むことができるようになる。逆に、腐らせることもできる。

ほとんどの人は、自分がどんなオールを持っているのか、知らない。

5.

34億人がオールを漕ぐ。その推力に比べたら、1人の人間がオールを漕ぐことに、ほとんど意味はない。

オールを漕ぐのを止めるのも良いだろう。1人がオールを漕がなくても、人類は前に進む。

毎年120万人がオールを漕ぐのを止めて、海に飛び込んでいる。

6.

ごくごく稀に、与えられたオールの能力を遺憾なく発揮して、1人で何万人分もの推力を出す人がいる。

そういう人の名前は歴史に残る。歴史に残ることで、死んだ後もオールを漕いでいる。

7.

人類という名のガレー船には、船長はいない。

船員は百数十のグループに分かれていて、それぞれにリーダーがいる。リーダー達はときどき集まって、ガレー船の方向を決めている。

実際のところ、リーダー達にも、ガレー船がどこに向かっているのか分かっていない。

8.

ガレー船には、船長がいると信じている人たちがいる。

彼らは、船長がガレー船を作ったと信じている。そして、今もガレー船を導いてるのだと信じている。

実際には、船長を見た人はいない。船長がいるのかどうか、船員にはわからないものなのだ。

9.

ガレー船は、今でこそ全体的に前進しているが、少し前までは船員グループ同士のケンカが絶えなかった。

あまりにケンカが酷く、ガレー船の進路は安定しなかった。一時はUターンしそうになった。

ガレー船に大穴を開けそうになる事態も一度や二度ではなかった。

10.

ガレー船は、おそらく「人類の楽園」に向かって進んでいるようだ。

そこでは、みんなが幸せで、みんなが自分の欲求を十分に満たすことができる。

何千年か、何万年か、何億年か、辿り着くまでどれだけかかるのかわからない。

もしかしたら、辿り着く前に、ガレー船が腐って壊れてしまうかもしれない。

でも、いつかきっと、人類はそこに辿り着く。34億人がオールを漕ぎ続けている。

11.

1人の漕ぐ力はあまりに弱い。あなたが漕がなくても、人類は、きっとそこに辿り着く。

それでも、あなたがオールを漕ぐことで、ガレー船の進路が安定するかもしれない。

あなたが努力すれば、オールは必ず強く漕げるようになる。ガレー船を一気に加速させることができるかもしれない。

あなたが上手く漕げなくても、あなたの子供や、孫や、ひ孫が、大きく漕いでくれるかもしれない。

あなたは無価値ではない。あなたがオールを漕ぐことは無意味ではない。

12.

私は漕ぐ。誰かのためではない。自分のためでもない。船長の指示でもない。

オールを漕ぐのは奴隷だと言われても気にしない。他人の分のオールまで漕ぐことになっても気にしない。

すべてを理解して、私はオールを漕ぐ。